【中小企業家しんぶん-9月25日号-(2000)から抜粋】
IT(情報技術)化が急速に進み、インターネットの普及で、消費者が自由に商品の情報を得、メーカーからダイレクトに商品を手に入れることが可能になる中で、卸・小売などの流通業が「中抜き」に遭い、大きな影響を受ける可能性が指摘されています。そのような中、流通業界でITを駆使し、チャレンジしている会員を紹介します。
売り上げが3倍に!
「IT革命といわれるなか、私はインターネットの普及で、個人対個人の結びつきが生まれたことこそ革新的だと思っています。これまでの商品の提供は情報も含め企業が大量生産したものの押し付けでした。しかしそこが変わってくる。消費者が必要なものを自ら探し、またそのニーズを企業に個別に実現させることもできるのです。」
照明器具、ブランド家具、カーテンなど窓周り商品、システムキッチンなどの住宅設備機器と、住まいと生活にかかわる多彩な商品をインターネット上で販売し、前年対比の売上を約3倍の2億9000万円に伸ばしているアテックス(株)の瀬野豊久社長(東京同友会会員)はこう話します。
アテックスの扱う商品はメーカー希望小売価格の最大60%引き。この安さは独自取引関係を開拓して実現したものです。客はホームページのカタログや各メーカーのショールームで現物を見て注文します。設備機器はネット上で施工までを受けるサービスをしています。
同社のホームページは最大一日5000件のアクセスがあります。多いときで1日130件の見積りのメールが入り、月5000万円を超える売上のときもあります。
消費者に必要とされる流通業
「このごろ口コミで評判を聞いて注文してくれる方が増えています。インターネット販売も、結局は仕事の質で勝負し、一番堅い口コミで市場を拡大していくことが大切だと実感しています。消費者に近いところで、大量にある商品情報をコーディネートし、安価で提供するのがこれからの私たちの仕事」と瀬野氏。
「中抜き」どころか、アテックスは消費者により必要とされる流通業のあり方を示す、ビジネスモデルとなっています。
創業時の1990年には、住設機器の一部に特化して、限定された地域で販売していましたが、95年にはインターネットに目をつけ、96年にホームページを立ち上げるとともにアイテム数を大幅に拡大。ネット広告戦略を打ち出し、99年7月からヤフーやグーなどにバナー広告などを出し、今年の3月には500万円もインターネットの広告費をかけていましたが、現在は100万円程度。
知名度は上がり、ネットビジネスの先駆けとして各種雑誌に取り上げられる中で、「アテックス」がブランドとして根付き、8月だけでも『経済界』『日経ベンチャー』など4誌に紹介されました。全額前納制がとれるのも、このブランディング(インターネット上のブランド確立)成功の賜物。
業界の古い体質との闘い
ところが昨年、大手家具販売店と家具の流通ルートなどが雑誌で比較紹介されたころから、大手家具販売店が客のふりをして偵察に来たり、取引業者を探るために多摩市にある店の周辺を見張ったりするようになりました。また、アテックスの取引業者に圧力をかけて来たり、「本来なら公取につかまるようなことを平然と行い、古い体質の業界はそれを許している。消費者のためでなく自らの利権を守るために、新たな業者を締め出そうとしているのです。しかしそんな謀略には絶対負けない」と瀬野氏。住設機器は販売店のテリトリーが暗黙のうちに決められ、その範囲での営業に限られていましたが、テリトリーに縛られないネット販売に業界全体がゆれているのが分かります。
「リアルビジネス(現存する商取引)がらみのネット上のベンチャーは、これから続々出てくるでしょう。その時には古い取引関係を変え、新たな環境を自ら生み出していくことになります。大きな摩擦は避けられません」
次々新たな取引関係を作っていかざるをえない中で、「実績を積み、会社を大きくしていきたい」と瀬野氏。「ネット上で必要とされるのは、消費者に支持される一社だけになるかもしれない。それが当社になれるよう努力していきたい」と話しています。